蜻狸『山百合の小兵』第8稿

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 短刀達が続々修行に出て、極として奮闘している中、蜻蛉切は初めてこの本丸に参画した。
 そして、その日のうちに阿津賀志山に送り込まれた。近侍のへし切長谷部、燭台切光忠、大倶利伽羅、鶴丸国永、同田貫正国と共にひまわりの海を馬で駆け抜ける。
「後ろで見てろ! お前の槍は敵に刺さらん!」と長谷部に言われ、背後の敵を注視するに徹していた。
 戦陣が広がるにつれ、蜻蛉切も走ったが、後ろからきた短刀をはたき倒している間に少し離れてしまった。短刀一本叩くだけでも槍が大きくたわみ、『錬度の差』を突きつけられる。幸運にも、岩で砕けてくれたので、一本は対処できたことに安堵した。もともとが、刺すよりは払い倒すような使い方が多い。刺さらなくても働きはできる! と心を持ち直したその時、目の前を黒い影がよぎった。
 敵大太刀の懐に入った同田貫だったが、蜻蛉切はまだその名を知らない。
「初槍万歳っ! さぁ、お山行っといで! 明日までに徳つけるんだよ!」
 と、挨拶もそこそこに出陣させられたのだ。主の顔すらまともに見られなかった。
「長谷部殿、村正はもうまいっておりますか?」
「村正? いや、話も聞いたことは無いな。今は、お前だけが村正だ。意地を見せろよ! 新参っ!」
「はいっ! この槍に賭けましてもっ!」
 最後尾を駆けたので、振り返って指示をしてくれた長谷部と、大丈夫大丈夫、と背や肩を叩いてくれた鶴丸と燭台切しか名前を知らない。
 隊長の長谷部より前を駆けている黒い小兵には気づいていたが、大太刀の懐に入ってしまうとさらに小さく見える。
 その彼が左の敵をなぎ払おうとしている所を、右からもう一人の敵に狙われていた。
「あの小兵! 危ない!」
 蜻蛉切が右の敵の胸に槍を突き出す。
 その瞬間、左の敵を切り払った同田貫の切っ先が右側に向くのを蜻蛉切は見た。
 最初から右の敵を知っていたのだ。今だと、真後ろから切りかかられているというのに。
 だが、すでに自分の槍も引くことができなかった。そんな俊敏性が自分に無いことを、蜻蛉切もよく知っている。突けば突き通すのみ、だったが、このまま突進すれば、同田貫の攻撃範囲というより、その刀を振り上げる邪魔になってしまう。その刃の下をかいくぐって駆け抜けた方がマシか、と思った。あれぐらいの敵なら、体重は同じぐらい、突き通して押しやることはできるはずだった。
 できる、と、思ってしまったのだ。
 蜻蛉切が槍を突き出してから、二秒も経っていない。だが、戦場の二秒は、長いのだ。
 長い、のだ。
 蜻蛉切は、槍の手応えに違和感を覚えて背筋を震わせる。
 槍は、刺さらなかった。
 『錬度の差』が、蜻蛉切の突進力、体重すら、十分の一ほどの衝撃にしか感じさせないのだろう。
 『お前の槍は敵には刺さらんっ!』と言っていた長谷部の言葉を思い出す。
 つまりは、敵の胸を切っ先で突き飛ばしてしまうことになる。刺し貫くつもりだったので、勢い、突進していた。
 敵の喉元を同田貫の切っ先がかすり、敵は後ろに蹈鞴を踏んだ。蜻蛉切が押さなければ、同田貫の刃は確実に首を切断しただろう。
 蜻蛉切は、見ていた。
 金色の、闇を。
 蜻蛉切が突き飛ばした敵は、燭台切が走り込んで切り伏せた。
 同田貫の、敵の喉笛を切り裂く筈だった切っ先が、蜻蛉切の柄の上を滑るように旋回する。
 蜻蛉切は、肉食獣の牙を、見た気が、した。
「槍が残ってるぞっ!」
 猛禽類の瞳が叫んだその音を、かろうじて、聞いた。
 まだ、彼の右手は蜻蛉切の柄の上に、ある。その状態で叫べたのは称賛に値する、と蜻蛉切は笑みを浮かべてしまった。気づいたことをすぐさま発布する、その指導力や良し! 力強い味方だ。
 味方で、あれば。
 二尺向こうに居た黒い小兵が、大きく一歩踏み込んで、来た。蜻蛉切もまだ、突進中だ。
「それは味方だ! 同田貫!」
「同田貫君っ! 殺しちゃ駄目だよっ!」
「槍だぁっ!」
 そうだ。
 自分は、槍だ。
 彼は、間違っては、いない。
 槍、だ……
『槍から殺せっ!』と、短刀達が自分に向かって笑っていたことを蜻蛉切は覚えている。
 同田貫は左足で踏み込んだ勢いで上半身を旋回させ、切っ先を、蜻蛉切の首に切り上げた。
 彼は錬度八二。蜻蛉切は一。
 避けられる、筈が、無い。
 右肩に切っ先が食い込んだ。
 冷たい金属の感触とともに、肋の手前に刀が行き過ぎる。鎖骨が切断され、喉仏に……
 否。まだ、蜻蛉切は止まれては、いない。そこで足場が悪くてつんのめったのは、幸か不幸か。
 彼の切っ先がこめかみにめり込んだのを、見た。
 なんと美しい黄金の瞳だろうか……
 満面の笑みに突っ込んでいく自分を感じる。
 頭の中が冷たくなって、キラキラシャリン……と、とても美しい音を聞いた。
 この冷たさは、彼の刃の温度だ。
 こんなそばで、彼に、触れた。
 触れられた。
 キラキラシャリン……
 透明な音が頭の中をかけまわり、彼の黄金の瞳に吸い込まれるようだ。
 気がついたときには、蜻蛉切は戦場のど真ん中にしりもちをついていた。鶴丸が右腕を止血してくれ、同田貫が燭台切にはがい締めにされて、同田貫と自分の間に近侍の長谷部が立っている。近侍の左手は、同田貫の切っ先を握り込んで血を溢れさせていた。蜻蛉切の頭蓋骨を両断するはずの刃を止めてくれたのだ。
 蜻蛉切は、そのまま後ろに倒れ込む。
「寝てろ。槍くん。脳味噌やられてる。もう動けんだろ」
 誰かに言われて頷こうとしたが、首が動いた気配はない。先程冷たかった頭の中が、熱い。
「落ち着いて同田貫くんっ! 彼は味方だよ!」
「敵を逃がしたっ! 俺が獲る筈だった首を逃がしたっ! 敵だっ! 敵を助けやがった!」
「君を助けようとして槍を突いたら、錬度が足りなくて突き飛ばすカタチになっただけだよ。敵を助けようとしたわけではないよ! 落ち着いて」
「はぁっ? そんな奴を連れてくるなっ!」
「仕方ないだろう。新参は阿津賀志山で育てるのが主の方針だから。もう、錬度一二になってるし。次は刺さるぐらいはするよ」
 同田貫が睨みつける。今にも唾棄しそうな瞳で歯を軋らせて、燭台切を肘鉄で振り払った。その前に燭台切も軽くステップを踏んで下がる。
「ハッハッハ。あれがウチで一番の戦闘狂だ。お前さん、はなから派手な洗礼受けたなぁ? 俺も最初に右腕やられたぜっ! 俺の声、聞こえてるか?」
 蜻蛉切の視界に白い影がよぎり、さも面白そうな声で訪ねられる。
 その間も、キラキラシャリン……と金属でできたせせらぎのような音は続いていた。
「はい…………ただ、先程からずっと、綺麗な音が聞こえます………………なんと美しい……」
 体が沸き立つような心地よさに覆われて、蜻蛉切は、自分が笑っていることに気づいた。
「あー……脳の髄がいかれっちまってるからなぁ…………長谷部っ! これ、撤退だろ? 火を起こそうぜ」
「そんなに悪いのか?」
「頭が千切れ掛けてる」
「全然、痛くはありませぬ……」
「それが一番やばい」
「まぁ、苦しくないのなら、僕たちも気が楽だけどね。もっと痛いことをするからね」
 そうだな。痛さを感じないというのは、死ぬ寸前だな……と、蜻蛉切も心の中で頷く。
「同田貫は俺たちを顔で見分けておらんからな、お前はしばらく敵扱いされよう。側に寄るな」
 影がせわしなく動いている。自分も何か働きを、と思うが、如何せん、指一本動かない。普段なら一番下っぱの自分が動くべきで焦りが走っただろうが、今はただ、キラキラシャリン……と脳内を駆け回る音に酔っていた。
「顔で見分けていない……とは?」
「大雑把に、色と体格でしか見てないみたい。顔を覚える気が無いんだろうね。焚火ついたよ……と、もうやってるね」
 ようやく落ち着いたらしい同田貫が刀をマフラーで拭っているのをおいて、燭台切が火を起こして蜻蛉切の側に膝をついた。首の傷の具合を見る。振り返った先で、大倶利伽羅が火のついた枝を取り上げ、蜻蛉切の傷を焼灼していく。
「いまだに、僕と和泉くんと長曽祢くんの見分けをつけてくれないからねぇ……困ったもんだよ……」
「俺も陸奥と間違われる……」
 大倶利伽羅の肩を叩きながら、鶴丸も自分を指さして笑う。
「俺も、『おい近侍』って声掛けられたことあるぜっ」
 たしかに、あなたも近侍も似た身長で髪が白っぽい、と蜻蛉切は思った。
「まぁ、君の身長の人はいないから、間違われはしないと思うよ」
「愛染と間違えたりして」
「髪が赤いからか?」
「さすがにそれはなかろう」
「おい近侍っ! 進まねぇのかよ!」
 同田貫が、倒れている敵の太刀から刀を取り上げて振り回し、切っ先がまっすぐかどうか、空かし見ながら怒鳴った。
 彼が自分の刀で戦うのは初手だけだ。敵を倒すと、その刀で戦って使い捨てにする。刀を折るのが楽しいらしい、とみな理解していた。
「新参が重傷だ。撤退する前に……」
「おう……任せな……」
 刀を振り回しながら、同田貫が蜻蛉切の側へ歩いてきて、焚火の炎で刀を焼いた。
「同田貫、これは新参の槍の蜻蛉切だ。覚えろ」
「でけぇ役立たずがいることは知ってる」
「初槍だぞっ! お前に殺されてはかなわんっ! 首を狙うなよ!」
「蜻蛉切、君を動かすのは大変だから、手足を止血して落とすぜ? 痛くないならどうともない筈だ。気を抜いてろ。怪我は本丸に帰ればすぐに治る」
「こいつ、いっちょまえに勃ってやがるぜ。刀に引っかかりそうだな、さすが槍だ」
「重症の時は勃つよな」
「でかいなーっ! 人間だったら伴侶の女探すの大変そうっ!」
 同田貫が真っ赤になった刀の先端で蜻蛉切の腰をつついた。そのままそれを振り上げる。
 キラキラシャリン……
 また、あの美しい音を聞いて、蜻蛉切は哄笑をあげた。
 なんと美しい黄金の瞳なのか!
 まるで雪山に君臨する鷹のようだ!
 無い腕で、蜻蛉切は同田貫を抱きしめた。

[newpage]

 そのあとも、蜻蛉切は重傷になるたびに同田貫に手足を切断されて馬に担ぎ上げられた。転送ポートが近いときに、足を二本切り落とすのは面倒だ、と腹を両断されたこともある。
 そのたびに蜻蛉切はキラキラシャリン……と、あの綺麗な音を聞いていた。進んで怪我をする気は無いが、重傷になれば同田貫が斬ってくれてその音が聞ける。それはひそかに蜻蛉切の楽しみにもなっていた。
「てめぇ、いい切り心地になってきやがったじゃねぇかっ」
 錬度が上がって、体の強度もついた蜻蛉切に同田貫が舌なめずりする。
 その口に、笑みが掃かれていた。
 戦のときしか笑わない同田貫。
 敵を切り裂いたときしか笑わない同田貫。
 その笑みを、蜻蛉切は初斬で見ていた。
 自分の手足を切り落としたときに、彼は笑っていたのだから。
 子供のように笑うのだな、と、いつも微笑ましかった。
 キラキラシャリン……
 彼の刃が蜻蛉切の骨を切断するときに聞こえる音だ。
 相変わらず、美しい。
 錬度五〇になった蜻蛉切の手足を一刀両断できるのは同田貫だけだ。否、他の者も、すればできただろうが、進んでそんなことをしたくはない。同田貫は捨て刀でするから、『自分の刀が折れる』という心配はないが、みな、他人の刀など使いたくはないし、他人の刀で自分のウエストほどもある蜻蛉切の腕を切断できるとは思えなかった。

 
[newpage]

「おい、短刀」
 畑に座り込んでいた蜻蛉切は、同田貫に後ろから声をかけられた。二人で畑仕事の内番なのだ。
 畑は、向日葵の森を切り開いた中に作られている。もともと荒野だったこの変に、短刀達が向日葵の種を蒔いたらしい。それが見張るかす限りの森になっている。否、森と感じるのは短刀達だけだ。蜻蛉切は頭一つ出ているので、見事な黄金の波が見えている。その脇にしゃがみ込んで雑草をとっているのだ。影になってくれてありがたい。
 短刀が向日葵の中にいるのだろうか、とは思ったが、とりあえず、それは自分ではない。
「聞こえねぇのかよっ! このチビ!」
 背中を蹴られて咄嗟に手をついて支えた。
 同田貫が自分の肩に足をおいて揺さぶっている。
『愛染と間違えたりして』
『髪が赤いからか?』
『さすがにそれはなかろう』
 初斬の時にそんな話を聞いたのを、蜻蛉切は覚えていた。本当に間違われたのだと、唖然とする。
「馬番も頼まれてる。あと任せるぜ」
 同田貫は『手合わせ』と引き換えにするのなら、仕事を替わってくれることが多い。最近は人数も増えたために出陣できる数は相対的に減っている。じっとしているのも嫌だし、普段組まれない手合わせをできることの方が楽しいのだ。だから、彼がのんびりと茶をすすっているところなどを見た者はいない。
 だが、今日は、畑当番が主務だ。同田貫が自分の趣味で人の仕事を肩代わりしてこちらをおろそかにすれば、蜻蛉切の仕事だけが増える。
 それに、温厚な蜻蛉切でも、名前を間違えられるのは嫌だった。戦場での名誉を他人に取られるのと同じだ。自分のしたことは自分だと認識してもらわなければ困る。
 けれど、こんなところで名乗るのもどうかと思ってしまった。
『てめぇ、いい切り心地になってきやがったじゃねぇかっ』
 自分で一刀両断しながら、笑って腹をたたいてくれた。あの彼は、『蜻蛉切』固体を認識してくれていた筈なのだ。
 蜻蛉切は、同田貫が体勢を崩さないようにそっと足を外し、立ち上がった。
「あ?」
 眉を寄せながら蜻蛉切の顔を見上げる金色の瞳。金属でできたひまわりのようだ、と蜻蛉切は思った。幼い顔が自分の影になったので、そっと一歩下がる。太陽に照らされたその瞳がもっと輝いたので、嬉しくなった。
 蜻蛉切ならば、この体勢で太陽に向かえばまぶしくて目を細めるが、彼はそういうことをしない。『あいつはいろいろ鈍いから、まぶしくもねーんだろ』と鶴丸が笑っていた。まぶしいまぶしくない、というのはそういうものだろうか? と蜻蛉切は思ったが、目の前の大きな瞳が太陽に向かったとて、ひそめられることがないのも事実だ。
 いつでも、真正面から自分を見上げてくださる。澄んだ瞳だ……、と蜻蛉切はよく見とれる。同田貫はほとんどの者に挨拶すらしない。顔を見ることさえ少ないのだ。だから、こうして『見上げてくれる』というのは破格の扱いの筈だ、と蜻蛉切は胸が熱くなる。
「お前か」
 同田貫の肘が後ろに引かれたのを見て、蜻蛉切は少し腹に力を入れた。予想通り、腹に正拳突きが来て、そのまま、バシバシと胸をたたかれる。まったく無表情だが、弾む手のひらに機嫌のよさがうかがえた。彼のこの暴力は攻撃ではない。スキンシップだ。
『てめぇ、いい切り心地になってきやがったじゃねぇかっ』
 あの後から、挨拶代わりに殴られるようになった。
 岩融は大坂城で錬度を上げたので、同田貫が一緒に出陣していなかった。だからか、同田貫は彼を個別認識していないらしい。
 斬ったことがある者だけしか、認識なさらないのだろうか? と考えたが、一度しか出陣したことの無い御手杵とも殴りあっている。
 蜻蛉切が参画した後ぐらいから、簡単な出陣で新参を育てるようになったのだ。だから、すでに錬度六〇を超えた蜻蛉切や、もちろん同田貫も、新参と出陣することはまずない。
 それなのに、御手杵と、同田貫はとても近しい。
「おおっ! トンボー、タヌキ見なかった?」
 御手杵によくそう聞かれて、「さぁ?」と答えるのが常だった。
 同田貫がどこにいるのか、大体蜻蛉切は知っていた。それでも、答えなかったのだ。
 なぜだろう、といつも思うが、意味がわからないままだ。何か困るようなことがあれば審神者に問おうと考えているが、困ったことが無いので捨ておいている。
 今日、畑仕事に来るときにも御手杵にそう聞かれた。同田貫は畑に向かっている筈だが、蜻蛉切はやはり『さぁ?』と答えたのだ。
 以前、御手杵が、物陰で同田貫を抱きしめているのを見てしまっていた。
 同田貫の顔を両手で押さえつけてかじりついていた。『口吸い』だと、人間との生活が長かった蜻蛉切は理解している。戦場では衆道も良く見た。
 だがそれは、『同位』の者が相手ではない。目下にすることだ。
 この本丸の先達である同田貫を、三名槍や御手杵の名をもって『目下扱い』するのか、と手に槍を召喚した。そのとき、同田貫が御手杵の股間を膝で蹴り上げたのだ。うつむいたその高い鼻に頭突きをかまし、腹に正拳突きを挿れて膝裏を蹴りつけ、もっと屈んだ延髄に肘鉄を挿れた。
「お見事!」
 咄嗟に掛け声を挙げてしまった。
 御手杵はぴくりとも動かずに血を吹き出している。
「運んどけ」
「凍えるような季節ではございませぬな」
 放置いたしましょう、と暗に断罪した蜻蛉切の胸を、バシバシと同田貫が叩いて過ぎる。
 ああそうだ、このかたは、お小さかったのだ…………
 蜻蛉切は向日葵を背にして同田貫を見つめ、その肩幅を目で計った。
 御手杵は自分より一回り細いが、その腕の中にすっぽり隠れてしまっていたのだ。
 一人で荒野にたたずんでいると、あんなに大きく見えるのに……、と蜻蛉切はくちびるを噛む。
「頼むぜ」
 畑の中で、同田貫に胸を叩かれた。その手のひらも、自分のそれよりかなり小さい。
 彼の瞳を見ていると、意識が散逸することが多くなった。
 顎先で畑を指されて、頷いてしまう。
 違う、そうではない、畑を最後まで自分と……と、いう言葉が脳内に走ったが、また胸をバシバシたたかれて、もう一度頷いた。
 鍬を肩に歩いていく同田貫を見送る。
 正拳突きされた腹がゲホッと噎せた。
 蜻蛉切の顔の下で、ひまわりがゆらゆらと揺れていた。

[newpage]

 蜻蛉切の待ち望んでいたセンコ村正が、来た。
 そして、本丸に乱交を流行らせてしまった。
 もともとが、宗三左文字や平安組が派手にしていたので誰も憚りはしなかったが、村正がそれを拡大させたのは事実だ。
 長谷部が本丸の建物のそばにある茂みを全撤去するほど、あちらこちらで睦み合う者たちが続出している。
 精鋭が増えた今、各自が絶えず出陣できるような布陣は組めない。内番もそんなに仕事は無い。ほとんどの者が暇でだらけるようになっていた、その時間を全部セックスに使うようになったのだ。
「本丸内を駆け回って障子や襖を破壊するよりはましだが……」
 と、長谷部も頭を抱えていた。
「申し訳ないことにございます……」
 蜻蛉切も平身低頭だ。
「お前が悪いわけではなかろう。謝るな」
「我が眷属の行いによる近侍の頭痛は、自分にも責任の一端があり申す」
「いや、出陣できないうさをそれで晴らせるようだから、困ってはいない。明らかに喧嘩は減ったからな。モノが壊れる数も激減した。俺が見たくないだけだ」
「戦略的に困っておられるわけではないのですか?」
「そうだ。たんに俺の好き嫌いだ。主も何もおっしゃられぬことであるし、日々の楽しみが増えたことは良いことだ」
 戦うために顕現されたのに戦えない。その鬱憤の方がひどかったのだ。
「一番うるさかった同田貫が静かになった。それが一番の救いだな」
「同田貫殿が?」
「村正が、真っ先に口説いたのが奴だったらしいぞ。村正派にはあれが気に入りなのかと、納得はしたがな」
「はい?」
「お前も、奴を気に入っておろう?」
「……はい……?」
「睦み合ってようやく、あやつは全員の顔を覚えたようだ。俺と鶴丸を間違えることも無くなった」
 自分が、同田貫殿を気に入っている?
 あの、御手杵のように? かのかたをああ扱いたいと? まさか!
 蜻蛉切は、気がついたら自分の部屋に戻っていた。障子を背に、正座していたのだ。すでに足に感覚が無い。日は落ち、静かだ。何時間そうしていたのかもわからない。
 何を自失していたのかと立ち上がろうとしたが、痺れた足が変な角度で曲がって、畳に倒れ込んだ。戦場でこけるなど、命を捨てるようなものだ。咄嗟に両手をついたが、どうにも下半身が安定しない。ここまで体を痛めつけるほどの何があったのか、さっぱりわからない。
「何を無様な…………自分は一体、何を……」
「おうっ! 赤い槍ぃっ! いるかぁっ!」
 畳でのたうっていた蜻蛉切の返事を待たずに障子が開いた。
 同田貫の声なのは分かったが、蜻蛉切が息を呑む。
 彼は、全裸だったのだ。
 しかも、腹にはすでにそれが勃ち上がっている。
「おう、槍の! しようぜ!」
「なっ……ナニ……をっ……? あ……村正!」
 にやにや笑っている村正が、中に入って障子をそっと閉めた。その頃には、帯が解かれて袴が引きずり下ろされている。巨漢に潰されていた足は、今だ電撃拷問のように痺れていて、全身がうまく動かなかった。
「村正っ! 同田貫殿に何をっ! 何を吹き込んだのだっ!」
「HUHUHU……あなたがお気に入りのようだったので、そうできるようにしたのデスよ。感謝してください?」
「何を言っているのだお前はっ! ……同田貫殿っ! おやめくだされっ!」
「手を抑えろっ! 邪魔だっ!」
 同田貫の頭を握りつぶせそうな手が下帯を握りしめていては、さすがにそれ以上どうもできない。
「ハイハイ、人使いの荒い人デスねぇ」
 村正は、叫ぼうとした蜻蛉切の顔をまたいで体重を賭けた。怒鳴った口に己のモノをツッコんで、突き上げる。陰嚢で鼻をふさがれ、先端で喉をうがたれ、窒息で一気に赤くなった巨漢が身悶える。固い両腕は村正を引き剥がそうとその腰に取りついた。同田貫がその太い足を肩に担いで腰を浮かせ、下帯を取り除く。
「なえてるっ! これをケツに挿れんだろっ? はいらねぇよっ!」
「なめて上げてくださいよ」
「さすがにそれは嫌だっ!」
「冷静ですね」
「てめぇがこれをケツに挿れた方が気持ちいいって言うから来ただけだっ! どうにかしろよっ!」
「そうですよ。気持ちいいですよ」
 村正に脛をなでられて、同田貫がへにゃりと腰砕けになった。彼の先端から透明な滴がピュッと蜻蛉切の腹に吹きつける。
 その間に、村正が蜻蛉切のを呑み込んだが、まったく、硬くなる兆しがなかった。
「あなた、強情ですね、蜻蛉切。あなたの愛しい人がここにいるというのに、抱きたいとは思わないのですか?」
「むぐっごっおおおおっっ!」
 蜻蛉切はまだ村正の腰で喋ることができる体勢にない。
「めんどくせぇなぁっ!」
「何をするのですかっ、同田貫殿!」
 同田貫が右手に自分の刀を召喚し、抜き身で蜻蛉切の足を貫いた。
 キラキラシャリン……
 あの、骨を破壊される美しい音が蜻蛉切の脳内に響く。
「勃った勃った!」
 同田貫が、自分の肘ほどもあるそれを手のこうでペチペチ叩く。
「おう……蜻蛉切はそうだと思っていましたが、こんなに純粋なMでしたか……」
「これに油をぬって挿れりゃいいんだろ?」
 村正が持っていたそれを蜻蛉切の腰にぶっかけてすりあげた。
「その大きさに恐怖を抱かないあなたは偉大ですよ」
「壊れりゃ手入れで直るんだなしなっ! 戦できねぇ時間が灼く埋まりゃいいんだよっ!」
 自分のソコをその先端に合わせて、スクワットをするかのように腰を振り下ろす。
「最初はゆっくりっ!」
 と、村正が止める暇も無い。同田貫のそこは、見る間に赤くしたり、畳を汚していく。
 そして、村正の悲鳴が轟いた。
 蜻蛉切に、噛み切られたのだ。
「ああっっ! イいっ! イいぜっっ! すっげぇっいいっ!」
「ゲホッゴホッッ……同田貫殿っ、止まってくだされっ!」
「ギャアアアアアアアァァァァァァッッッ!」
「同田貫どっ……の……っっむぐっ!」
 同田貫が、自分を拘束しようとした蜻蛉切の、足に突き刺した刀をえぐり回した。
「もっと腰振れよっ! もっとだっもっと!」
 激痛に痙攣する蜻蛉切の太い腰が同田貫を突き上げる。
 何度も同田貫が白濁を放ち、獣のように歓喜の叫びを上げる。
 なぜこんなことに……?
 戦場とも見紛うような血しぶきの中で、蜻蛉切も同田貫も失血で青くなっているのに、快感は続いていた。
 キラキラシャリン……と美しい音も響いていた。
 ようやく止まった同田貫が、両手を蜻蛉切の腹についてゼイゼイと肩を揺らす。髪から直接蜻蛉切の胸に汗が流れ落ちた。
 青くなった顔で、それでも熱にうかされた金色の瞳が蜻蛉切を見上げて舌なめずりする。
 青痣の浮かんだ自分の腹をさすって、同田貫は血を吐きながら笑った。
「ここまで、てめぇの槍が俺の臓腑を貫いてるぜ…………」
 赤い舌を出して笑う、同田貫。そこから唾液と共に血もしたたっていく。内臓の出血が口にもあふれているのだ。
 ドックン……と、蜻蛉切の目の前が赤くなった。もっと大きくなったそれに、同田貫がアハハハハッ……と笑い声を上げる。
 同田貫の笑った声に、蜻蛉切は最後の一線が切れたのを、見た。
 それに同田貫も甲高く笑って蜻蛉切の太い首に手を伸ばす。
「俺の脳髄まで引き裂いて見せやがれっ!」
「ウオオオオオオオォォォォォォォッッッッッ!」
 大砲のように蜻蛉切は怒号を発し、同田貫を押し倒した。同田貫の指が背中を引き裂き、そのたびにキラキラシャリンと音がする。
 なんと美しい…………
「貴殿はなんと美しいのだっ! 同田貫殿っ!」
 同田貫の熱い肉に包まれて、蜻蛉切は泣きながら彼をむさぼった。

[newpage]

 蜻蛉切と同田貫と村正が、長谷部の前で正座していた。
 うわ、同田貫くんの正座とかっ、珍しっ! と、長谷部の後ろで燭台切が笑いを噛み殺している。
「セックスするのはいい」
 大きなため息をつきながら、長谷部が訥々と諭す。
「手入れをすれば、血も消えるから、今回はそれもいい。
 手入れ代もお前たちの給金から引くから、資材が余っていたから、今回は許そう」
 もう一度大きなため息をついて、三人を睨み付けた。
「だが、お前たちが自分で手入れ部屋に入れるようにしろ。手入れ部屋に運ぶのに何人必要だったと考えているのだ」
 えっ? 長谷部君の怒りポイントってそこなの? と燭台切が、長谷部をまがまがしいものでも見るような瞳で眺める。
「じゃあ、手入れ部屋の前でする」
「それは許可せん」
「なんでだよ。なら這いずって入れるだろ」
「公共の場でセックスをするな。という触れは出している。人の目につくところでするな。手入れ部屋の前は茂みも全部撤去したし、もともとがあのあたりは空いている個室も無い。
 それより、血が出ないようにしろ。それだけで手入れ部屋自体が必要ではなかろう」
「……これって、なぜ私も連座させられているのでしょうか? 私は純粋な被害者なのデスが……」
 立ち上がろうとした村正を、蜻蛉切が肩を押さえつけた。
「お前が被害者の体を成すのは、許さぬ」
 座れ、という怒号を手のひらに感じて、村正はしおしおと座り込んだ。
「むろん、怪我などしないようには気をつける所存。こたびは、初めてのこともあり、加減がわかぬが故無様を晒し申した。申し訳ないことでござる」
「お前、刺さなきゃ勃たねぇぜ」
 同田貫の、恥も外聞も無い一言が長谷部の額に血管を浮かび上がらせた。ただの無表情だったのだが、蜻蛉切には、とてもあどけない顔に見える。そして、幼子にえぐいことを言われた印象が沸いた。
 長谷部の大きなため息で我に帰った蜻蛉切は、同田貫の金色の目に見とれていたことに気づく。
 以前から、たしかに同田貫の容姿は好ましかった。だがそれは、戦場でのあの燃え上がるような気炎故、と考えていたのだ。
 決して、昨日までの彼を見て『あどけない』などとは感じなかった。
 そして、自分が彼を『抱いてしまった』ことに罪悪感もある。衆道の弟にしてしまったことは、手入れ部屋から出て平身低頭謝ったが、同田貫は何も気にしていないようだった。
 大器なり……と、蜻蛉切は感服する。
『お前さぁ、俺がタヌキ好きなの知ってていきなりなにしてくれてんだ』
 と、御手杵にも泣きつかれた。
『絶対抱かせてくれなかったのにっっっ! タヌキがあんなとこ怪我ってそういうことだろっ! お前のでかいのツッコんだんだろっ! くそーっ! タヌキの処女欲しかったのにーっ! まだ口説くからなっ! 覚悟してろよっ!』
 変な宣戦布告をどうしようかと考えている最中だ。
 同田貫がどう出るのか、まったくわからない。
 できたら、他の者には触れてほしくなかった。当然の独占欲だと、蜻蛉切は自分で納得している。
「長谷部殿にお聞きしたいことがありもうす」
「なんだ」
 無視すんな、と同田貫に蹴られたが、微塵にも揺るがず、膝の前に両手をついて、蜻蛉切は長谷部をにらみつけた。
 長谷部も返事はしたものの、大きく息を吸って、吐いて、咄嗟に逃げられるよう、わずかに腰を浮かせる。
「手入れをしていただいた直後ですが、なにやら目の調子がおかしいのです。もう一度手入れしていただくことはできますでしょうか?」
「目がおかしい? どうおかしい?」
 由々しき事態だぞそれは、と、長谷部が手入れ部屋の様子を見に行かせる。
「昨日までは、自分の目に、同田貫殿はただ勇ましく、意気高く、豪壮ではるかに高い場所におられたように思うのですが…………」
 長谷部から同田貫に視線を移して、蜻蛉切がその大きな肩を落とす。同田貫も、蜻蛉切にケリを挿れたまま、彼を見上げていた。
 長谷部が眉を寄せるのと同時に、燭台切が、娘に初潮が来て喜ぶ母親のように顔を赤くし、まぁ、なんてことでしょう! と、両手で自分の頬に手を当てた。襖の向こうからくぐもった声も聞こえる。
「今は、ただ………………その、金色の瞳があどけなく、美しく……………………」
 はらり、と蜻蛉切の瞳からしずくがあふれ落ちた。
 同田貫も目を見開いてそんな彼を見上げてる。
 蜻蛉切の右手が、そっと同田貫の左頬に添えられた。
「胸が……痛うございます………………指が……溶けてしまいそうな………せっかく顕現していただきましたものを………………もう、昨日のような働きができるように…………思えませぬ……」
 同田貫は大きな手のひらに、そろりそろりと抱きしめられた。斜めになって、蜻蛉切の腕の中に隠されてしまったかのようだ。
 襖の向こうで、畳を連打する轟音が何度があがり、襖がカンっ! と、音を立てて開かれた。
「話は聞いたぜっ、蜻蛉切!」
 まるで、探偵モノドラマのクライマックスのように、大見得を切って鶴丸が現れる。その後ろに、短刀や祭り好きの者たちがわんさと覗いていた。
 まだはらはらと泣きながら、蜻蛉切が目を大きくして彼らを見あげる。そして、深窓のお嬢様のようにゆるりと頭を下げた。彼らも思わず深々とお辞儀をして、拍手する。一番そばで、口笛まで吹いて祝う村正だけが、蜻蛉切の重たい手のひらで畳に押し伏せられた。
「蜻蛉切、それが『恋』ってヤツだっ! お前は、同田貫が好きなんだよっ!」
 まさに発光するがごとしのましろな姿で、鶴丸が意気揚々と宣言した。
「コイ……でございますか?」
「おっと、魚の鯉じゃないぜ? いとしいとしと言う心、のほうの恋だ」
 うんうん、と後ろでみなが首を縦に振る。
 不安なのだろう蜻蛉切はどんどん同田貫を引き寄せて、彼はすっかり蜻蛉切の分厚い膝の上にいた。
 なんだこの状態は……と、長谷部一人が無言だ。
「お前さん、同田貫を好きなんだよ。恋しちゃってんだよ。だから、今のお前さんのその感情は正当だ。病気じゃねぇし、手入れでは直らねぇよ!」
「自分が、同田貫殿に、恋を?」
 もう胸の中にいた同田貫を蜻蛉切がうかがいみる。
 熱い手のひらと黒い袂でほぼ全身を隠されて、同田貫は眠り込んでしまっていた。
「こりゃまた自由な奴だねっ! こいつはまったくっ! この騒ぎの中で寝るかぁっ!」
「猫って抱きしめると寝ちゃうんですよね」
「確かに、同田貫は猫だな。自分勝手で、好きなことしかしない。飢えても尻尾延ばして塀の上をつらつら歩いてそうだもんな」
「今日は赤飯炊きたいねっ! 長谷部くん、買ってきていいかなっ?」
「何の祝いをするつもりだっ!」
「あんなにとげとげしていた同田貫くんが、眠れるようになったお祝いだよ!」
 長谷部以外の全員が、燭台切のその思いつきに拍手をした。
「同田貫だけが、戦に出せだせって、一人不幸だったもんね、最近」
「それは私の手柄デスよねっ! 私が二人をくっつけたのデスからっ!」
 ハラショー! と、両手を挙げて、村正が宣言した。それに拍手を受けて満面の笑みでコクコク頷く。それをまた、蜻蛉切の手のひらが畳に押さえつけた。
「お前が同田貫殿にいかがわしいことをお教えしたから、ここで長谷部殿に叱られるはめになったのであろうがっ! 反省しろっ!」
「同田貫殿の処女は守ってあげていましたのにっ! 褒めてくださいよっ!」
「しょじょ?」
「同田貫殿は、ちゃんと、未通者(おぼこ)であなたにお渡ししましたからねっ! 御手杵殿の追従がどれだけ凄かったと思ってるんデスかっ!」
 真っ赤になった蜻蛉切を見て、童貞はいただきましたけど、と村正が肩をすくめて笑う。
「お前たち、最初にした話を覚えているか?」
 ようやく、長谷部が口を出した。
「出血するようなことを、するな」
「それは無論!」
「ふぁっ!」
 蜻蛉切が前のめりに頷いたことで、同田貫が目を覚ましたらしい。蜻蛉切の顎を殴る勢いで伸びをして、斜めに長谷部を見上げる。
 お前はその体勢を苦しいとは思わないのか? と長谷部は問いただしたかった。
「もう行っていいか?」
「お前も、確約しろ、同田貫。出血するようなことをするな」
「無理だ」
「同田貫殿!」
「なぜだ?」
「だってこいつの、刺したら切れるし。多分、内蔵もイったよな、あれは。口から血ぃ吐いたし」
 長谷部の柳眉が逆立ったことに、蜻蛉切が青ざめ、鶴丸たちが一歩引いた。
「まー…………なれたら切れなくなんのか?」
「なれたら大丈夫だと思いマスよ」
「じゃ、とっととなれるまでするとするかっ!」
「待て同田貫。話は終わっておらぬ。座れ」
「出血はしないようには気をつける。だが、したらしかたネェだろ」
「行為そのものをやめろ。とにかく座れ。まだ終わっておらぬ」
「さっさとやって、さっさとなれたほうがよくねぇか?」
「座れ」
 同田貫が、ため息をついてあぐらを組んだ。
「正座しろ」
 えー、と言うの睨み付けられ、蜻蛉切にも急かされてようやく、同田貫は正座した。長谷部が、大きなため息をつく。
「まず、お前が、蜻蛉切を刺すな。蜻蛉切も、村正を噛むな」
「ああしなきゃこいつ勃たなかったんだよ!」
「あれは不可抗力でございますっ! 長谷部殿っ!」
「そうデスよっ! もっと言ってやってくださいっ! 死ぬかと思いマシタよ!」
「お前は黙れ! 村正!」
「そうだぜ、村正! お前がああしろっていうからやったら、近侍に怒られたんだぞっ! お前こそ、俺のチ○ポもって廊下を引きずり回しやがって!」
「そんなことを同田貫殿にしたのかっお前はっ!」
「ワタシが痛くてうめいているのを無視して盛り上がったくせにっ! ワタシのおかげで二人はくっついたんでしょうっ! 褒められこそすれ、くさされる筋合いがありマスかっ!」
 もう一言怒鳴ろうとした同田貫も蜻蛉切も、ややあって黙り込んだ。
 ソウデショウ! 私のおかげなのデスよっ! と村正が胸を張る。
「村正は、一カ月禁欲しろ」
 エッ! と村正が反論する前に、長谷部は言い放った。
「蜻蛉切と同田貫は今回使った分の資材を遠征で集めてこい。罰則の一つであるから、旅費は給金から出せ」
 新婚の二人の騒動など本丸で聞きたくない、という長谷部の『温情』だった。手入れ部屋がなければ同田貫も無茶をしないだろうという目論見もある。
 遠征から帰って来た二人は、予想通り激しかったので、その最初の一カ月ほどを遠征で追い出しておいて良かった、と長谷部は心のそこから自分の判断を褒めた。

[newpage]

「うわ、タヌキ、凄く良く寝てるねー」
 乱が、蜻蛉切の部屋を訪れてわふわふと畳にあがった。
 書見台に向かっている蜻蛉切の膝の上で、同田貫が丸くなって目を閉じている。
「熊本城におられた、幼かった頃、武器庫で槍の兄君の膝でおやすみになられていたそうです」
「そういやこいつ、自分より大きいやつらの中にいる方が機嫌よさそうだった。それでかー」
「あぁ、……それで、……ですな」
「何が?」
「自分が初陣のおり、同田貫殿が一番小兵でありました」
「阿津賀志山は、あのころ短刀は入れなかったしねー」
「……そうでしたか」
「うん。かなり強かったからねー。敵が。タヌキも良く重症帰還してた。それでも手入れ部屋から出たら即効出陣したがるし、いつ寝てるのか、……寝たとこ、見たことなかったなー。かわいい顔して寝てるねっ!」
 

「うあー」
 同田貫が、蜻蛉切の腹に頭突きをするかのように起き上がった。その腹筋を確かめるかのようにゴンゴン、とまだ突進する。
 もちろん、蜻蛉切は微塵にも動かない。

 あのころは良く、蜻蛉切は重症を負って、同田貫に手足を落とされて運ばれていた。今はとんとそんなことは無く、

 短刀達が、花を綺麗だときゃっきゃ騒いでいる。
 ナニが『綺麗』なのかわからないタヌキ。
 ▲を【見上げて】
 タヌキを愛おしくてたまらないけれど、タヌキはいつも無表情で自分がどう思われているのかわからない。
 その時に
「ああ……お前は綺麗だな」
 と言われて、やっと安心する▲。

作成日: 2017年3月5日(日) 22時11分
作成日: 2017年3月5日(日) 22時50分

 

 


 ↑ ここまでが原稿

ようやく、冒頭が小説になってきました。

そして、ラストがまだ全然。

 

これ、仕上がらないとYouTubeで説明もできないんだけどどうしよう

と思ったのは覚えています。

 

YouTubeでこれを説明するために

稿をわけてテキストを残したものなので、仕上がらなかったら

それが全部無駄になります。

 

オリジナルは話が長すぎて、この説明をできないんですよね。

 

ラストがうかばねーっ!

と、多分、他の小説書いてました。

 

蜻狸『山百合の小兵』初稿~完成稿 | 小説の書き方-プロ作家が答えます

 ↑ この小説の初稿から完成稿の一覧。

 

 ↓ この記事での説明のための、記事です

【小説の書き方】第一稿はとにかく文字にする【初歩】 | 小説の書き方-プロ作家が答えます

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