燭へし、くりつるがすでにいる本丸。京都も終わってる。
槍一本目の蜻蛉切。
錬度1だけど、精鋭部隊と一緒に阿津賀志山に出陣。「後ろで見てろ! お前の槍には敵には刺さらん!」と言われて大人しくしていた。長谷部、燭台切、大倶利伽羅、鶴丸、タヌキ、蜻蛉切で出陣。
タヌキの名前もまだ知らないぐらい。
でも、小さいタヌキが戦場で凄く目立っていた。
タヌキが左の敵をなぎ払おうとしている所を右からもう一人の敵に狙われているのを蜻蛉切が遠くから見つける。
「あの小兵! 危ない!」
蜻蛉切が右の敵の胸に槍を突き出す。
その瞬間、左の敵を切り払った同田貫の切っ先が右側に向くのを蜻蛉切は見た。
最初から右の敵を知っていたのだ。
だが、すでに自分の槍も引っ込めることができない。
そして、『刺せなかった』のだ。
『お前の槍は敵には刺さらんっ!』と言っていた長谷部の言葉を思い出す蜻蛉切。
つまりは、敵の胸を切っ先で突き飛ばしてしまうことになる。
敵の喉元をタヌキの切っ先がかすった。
蜻蛉切が押さなければ、確実に首を切断した刃だ。
蜻蛉切は、見ていた。
金色の、闇を。
蜻蛉切が突き飛ばした敵は、燭台切が走り込んで切り伏せた。
同田貫の右手が、蜻蛉切の柄の上を滑るように旋回する。
肉食獣の牙を、見た気が、した。
「槍が残ってるぞっ!」
その音を、蜻蛉切はかろうじて、聞いた。
まだ、彼の右手は蜻蛉切の柄の上に、ある。
二尺向こうに居たはずなのに、大きく一歩踏み込んで、来た。
「それは味方だ!」
「槍だぁっ!」
そうだ。
自分は、槍だ。
彼は、間違っては、いない。
槍、だ……
彼は左足で踏み込んだ勢いで、上半身を旋回させ、切っ先を、蜻蛉切の首に切り上げた。
彼は錬度82。蜻蛉切は1。
避けられる、筈が、無い。
右肩に切っ先が食い込んだ。
冷たい金属の感触とともに、肋の手前に刀が行き過ぎる。鎖骨が切断され、喉仏に……
なんと美しい黄金の瞳だろうか……
気がついたときには、蜻蛉切は戦場のど真ん中にしりもちをついていた。鶴丸が右腕を止血してくれ、同田貫が燭台切にはがい締めにされて、同田貫と自分の間に近侍の長谷部が立っている。近侍の左手は、同田貫の切っ先を握り込んで血を溢れさせていた。
「落ち着いて同田貫くんっ! 彼は味方だよ!」
「敵を逃がしたっ! 俺が取る筈だった首を逃がしたっ! 敵だっ! 敵を助けやがった!」
「君を助けようとして槍を突いたら、錬度が足りなくて突き飛ばすカタチになっただけだよ。助けようとしたわけではないよ! 落ち着いて」
「はっ?」
同田貫が蜻蛉切を見て、燭台切を見上げる。
「ハッハッハ。あれがウチで一番の戦闘狂だ。お前さん、はなから派手な洗礼受けたなぁ? ちっこいが勢いあるぜ!」
「同田貫は俺たちを顔で見分けておらんからな、お前はしばらく敵扱いされよう。側に寄るな」
「顔で見分けていない……とは?」
「大雑把に、色と体格でしか見てないみたい。顔を覚える気が無いんだろうね」
ようやく落ち着いたらしい同田貫が刀をマフラーで拭っているのをおいて、燭台切が蜻蛉切の側に膝をついた。首の傷の具合を見る。
「いまだに、僕と和泉くんと長曽祢くんの見分けをつけてくれないからねぇ……困ったもんだよ……」
「俺も陸奥と間違われる……」
倶利伽羅の肩を叩きながら、鶴丸も自分を指さして笑う。
「俺も、『おい近侍』って声掛けられたことあるぜっ」
たしかに、長谷部も鶴丸も似た身長で髪が白っぽい。
「まぁ、君の身長の人はいないから、間違われはしないと思うよ」
「愛染と間違えたりして」
「髪が赤いからか?」
「さすがにそれはなかろう」
「おい近侍っ! 進まねぇのかよっ!」
同田貫が、倒れている敵の太刀から刀を取り上げて振り回し、切っ先がまっすぐかどうか、空かし見ながら怒鳴った。
彼が自分の刀で戦うのは初手だけだ。敵を倒すと、その刀で戦って使い捨てにする。刀を折るのが楽しいらしい、とみな理解していた。
「同田貫、これは新参の槍の蜻蛉切だ。覚えろ」
「でけぇ役立たずがいることは知ってる!」
「初槍だぞっ! お前に殺されてはかなわんっ!」
「行くのかっ! 帰るのかっ!」
「同田貫!」
どうやってこれで蜻蛉切がタヌキを好きになるんだよw
作成日: 2017年3月5日(日) 22時11分
↑ ここまでが原稿
ここらへんでようやく、背景が決まってきました。
最初のメインシーンも確定気味。
セリフだけ書き留めて、シーンはあとで埋めていきます。
蜻狸『山百合の小兵』初稿~完成稿 | 小説の書き方-プロ作家が答えます
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